音を見る映画『日日是好日』

投稿者:竹原

映画館ではキャラメル味のポップコーンが欠かせない竹原です。
あの空間に入ったとき、ふんわり漂う甘い香りが非日常を感じさせて、これから訪れる映画の世界の入り口に立ったようなワクワクとした感覚になります。

そんな私ですが、「この映画を観る時にはポップコーンは食べられないな」と思った映画をご紹介したいと思います。

『日日是好日』大森立嗣監督作品。2018年10月13日公開。

黒木華さん、樹木希林さん、多部未華子さんらが出演。
茶道教室に通った約25年について記した森下典子さんのエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊)を映画化したものです。にちにちこれこうじつ。直訳で、日々、毎日が素晴らしいという意味。

先日、横浜にある<そごう美術館>で開催された「樹木希林 遊びをせんとや生まれけむ展 特別編」を観に行ってから樹木希林さんの作品に触れたくなり、Amazon Prime Videoで最初に見つけた一本。出会えて良かったと思う作品でした。

主人公は黒木華さん演じる典子。真面目で理屈っぽくておっちょこちょいな大学生。彼女は親に勧められ、特に乗り気ではないもののなんとなく近所の茶道教室に通い始めます。そのお茶の先生が、樹木希林さん演じる武田先生。「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っ ておいて、後から『心』が入るものなの。」そう教えられ、戸惑いながらも毎週土曜日に通い続けることで、典子の人生に対する向き合い方が変わっていくという物語。

私は映画に詳しいわけでもないし、お茶のおの字も知らないド素人ですが、この作品は音が素晴らしかった!映画音楽の良さではなく、そのとき感じる彼女の世界の音を一緒に味わうことができる感覚でした。

まろやかなお湯の音。きらきらした水の音。
春の雨。冬の雨。
その時折異なる、茶室のお軸を見ながら聴こえる庭の風の音。

最初から聴こえてくるわけじゃないんです。彼女の心が、お茶に通うことで研ぎ澄まされたことで徐々に開けていく、それとともに映画を観ている私にもすーっと入ってくる。水音一つとっても違うんですね、熱いお湯と冷たい水では。そんな音のひとつひとつに耳を澄ませたくなるので、ポップコーンは食べられない!
聴覚だけでなく視覚からも音を感じられました。春の柔らかな葉の萌葱色、夏の障子から差す強い陽の光、秋の気持ちよさそうな風、冬の白く染まる呼気。その全部が音を奏でているよう。

「雨聴」
雨の日は雨を聞く。五感を使って、全身で、その瞬間を味わう。
雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを、冬には身の切れるような寒さを。

これは、映画の中で典子が独白するシーンからの引用です。
まさに自分が実感したものと繋がっていて、感動。20年以上お茶に向き合い続けた彼女の感覚を疑似体験出来ちゃうんだから、映画って素敵だなぁ。

なかでも私がぐっときた音のシーンについて。
(多少のネタバレを含むます。)

長年付き合い、挙式まであと2ヶ月というところで彼の裏切りを知った典子。駅のホームで佇む彼女。先程来た電車が人々を乗せ、大きな音を立てて発車していく。

ごぉおおおおおお、途切れる、無音、ぱたっと涙が一粒落ちる、嗚咽。

好き。ここ大好き。
大学卒業後に就職が出来ず出版社のバイトをしていた典子は、周りと自分を比べて劣等感を抱いていました。あの子は前にどんどん進んでいる、私は何もできていない。お茶を習っても自分の半分の年齢の子が自分より秀でている。ああ、ここにも私の居場所はないんだ。そこに来て、婚約者の裏切り。
「正しいひとたち」が「正しい時刻に出発する電車」に乗って「正しいレールに沿って前に向かう」。そこに乗ることすら出来ず置いてけぼりになっている、何にもなれない自分っていうのが、音でも感じられるんですよ!いい!

登場人物が少ないのも良かったです。物語が進んでいくのも、典子の独白が結構多くて場面展開は静かなんです。先程私が熱く語った裏切りの話も独白のみ。

主人公演じる黒木華さんも勿論素晴らしいですが、圧倒的説得力を与えてくれるのが、お茶の先生役、樹木希林さんでした。所作が凛としているのに柔らかく丸みを帯びていて、厳格な雰囲気の中に優しさが溢れ出ているんです。武田先生の人生を生きてきたんだって自然と感じられる。この樹木希林さんの名演がなければ成り立たない作品なんじゃないかなと。

そんななか、先日、番組の収録で俳優・映画監督の奥田瑛二さんをお迎えしたときの事をふと思い出しました。奥田さんのご友人でもあられる津川雅彦さんについて語られていた時のこと。「すごい俳優は、亡くなっていても亡くなっていないと思わせる。」本当にそうだなと感じました。樹木希林さんもそのお一人だと思います。

ということで、もし機会がありましたらご覧下さい。1時間39分です。ハンカチは一応用意した方が良いかも。私はほろほろ泣きました。
好きなものを共有したいということでの今回の記事いかがでしたでしょうか。私は書いてて楽しかったです!

〜〜〜

さて、昨年末始めたTwitterですが、前回更新時はフォロワー数335名。
現在438名!あれからプラス103名…ありがたい〜。
引き続き、本年もよろしくお願い致します!

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